ISBN:4167502062 文庫 村上 春樹 文芸春秋 ¥470

そしてこれも一般論になってしまうが、多くの場合、孤独は人の心を蝕んでいく。僕は作家だから、孤独というものの持つ力強く輝かしい価値と、裏にある危険な毒性をよく承知している。そこに約束されている価値を手に入れるためには、僕らはその毒とともに生きていく術を覚えなくてはならない。緊張と集中力が必要とされる。少しでも気を抜くと、その毒はすぐに僕らに噛みつく。狡猾な蛇のように。
 それでもなお、彼女は自由であることを幸福だと感じている。彼女は自分が、自分の選んだ人生を生きていることを、何よりも素晴らしいことだと思っている。それはひとつの達成であると信じている。あと残されているのは、勝つことだけだ。
 そう、勝つことだけなのだ。
 また一般論。勝ち続けているとき、勝つことはとても簡単であるように思える。手を伸ばしさえすれば、勝利はいつもそこにある。しかしいったん勝てなくなってしまうと、身をそいで骨を削っても、どれだけ長く手を伸ばしても、勝利は遥か遠くにしかない。
 「指導者がいないことのいちばんつらい点は、自信をなくすことです」と彼女は静かな声で言う。「自分が今どこにいるのか、それが正しい場所なのか、そうではないのか、判断をいつも自分で下さなくてはならないということです」
 もちろん、ときとして、彼女は途方に暮れる。

コメント

颯子
颯子
2006年11月1日22:37

今日の秘密日記にメッセージを書きました。P.O.さんがお読みになったら、消させていただきます。いやはや、偶然てあるものですねねね!
仕事のためにお読みになっているようですが、P.O.さんと村上春樹ってあまり結びつきません。個人的にはお好きなのでしょうか。

P.O.
P.O.
2006年11月4日0:54

いやはや、ほんとに偶然というのはあるものなのですね! 村上春樹については、新しいエントリでお答えさせていただきますね。

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