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三島由紀夫「豊饒の海」4部作の1巻目を、初の映画化。行定勲監督の下、妻夫木聡、竹内結子という魅力的な共演が実現した。大正初期を舞台に、栄華を誇る侯爵家の若き子息、松枝清顕と、没落の気配を見せ始めた伯爵家の令嬢、綾倉聡子の悲恋を描く。宮家の王子から求婚を受けた聡子が、それでも清顕と関係を持ってしまい、取り返しのつかない運命をたどることになる。
大正の貴族社会を再現した美術に息をのむばかり。『花様年華』などの名カメラマン、リー・ピンビンによる、ゆるやかなカメラの動きも美しい。主演ふたりは、いかにも現代的なイメージだが、格調高いセリフを自分のものにし、独特の貴族社会に溶け込んでいる。クライマックスの妻夫木の演技は鬼気迫るものがあり、岸田今日子ら助演陣も秀逸。この映画版は、誰かを一途に愛すること、そして愛のために身を引くことの辛さを、時代を超えて現代のわれわれに訴える力を持ち得た。「豊饒の海」全体の主人公であり、清顕の親友である高岡の視点から観ると、また違った三島由紀夫のテーマがにじみ出てくる点もすばらしい。
これは12/8。良いお家柄の完璧な美少年という設定のハズなのに、ぜんぜんそう見えない主人公以外はよかったですねえ。脚本、撮影、編集、美術、衣装、照明、大道具、小道具、背景、ロケーション、脇を固める豪華なキャスト:若尾文子、岸田今日子、大楠道代。
ほかには、生まれ変わって主人公が会う相手が、原作とまったく異なる相手に読めてしまい、それじゃ次の巻以降を続編として撮るのに、設定上、支障が生じるじゃないか、とかいう疑問も。
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